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おしりの構造と病気

 日本人の三人に一人にイボ痔があるといわれます。これに切れ痔や痔瘻を加えると、とても多くの人が痔で悩んでいるということになります。肛門疾患専門病院である家田病院(豊田市)で勤務させていただいたとき、痔で悩んでいる患者さんの多さにびっくりしました。特に20歳代、30歳代女性の多さに驚きました。人に言えず、悩んでいる方がいかに多いかということを初めて知りました。約7年間、家田病院で勤務し、大腸肛門疾患についてたくさんのことを勉強させていただきました。私が学んだ知識や技術がこの地域にお住まいの痔でお悩みの方の力になればと思います。
 外来をやっていて、よく『私って痔ですか??』と聞かれます。
 痔というのは肛門疾患の総称で、そのうち三大疾患がイボ痔(痔核)、切れ痔(裂肛)、あな痔(痔瘻)です。この3つで痔の8〜9割を占めますが、これ以外にも肛門周囲湿疹や直腸脱など様々な病気があり、これらも痔に含まれることになります。

これからお尻の病気について説明します。
病気を知るにはまず正常の肛門の構造と働きについて知らなければなりません。

肛門の構造と働き

肛門の構造(断面図)イメージ

 通常の状態では便やガスが漏れることはありません。
 これは意識しなくても内括約筋がしまって、肛門は閉鎖しているからです。ただし、厳密には内括約筋が締まっているだけで漏れないのではなく、直腸の一番下端の粘膜が少し垂れ下がるように膨らんでいて、ここが密着して漏れないようになっているのです。便意やおならをもよおすとお尻を閉めて我慢することができますが、これは外肛門括約筋を意識的にしめることができるからです。トイレへ行って排出可能な周囲の環境が整って、力むとこれらの括約筋が弛緩して、便やガスが排出されるわけです。

 この肛門括約筋によって締め付けられた4〜5センチメートルの管状部分を肛門管と呼びます。ここには直腸の末端部分と肛門の皮の部分(肛門上皮)が含まれます。そして、この肛門管にできる疾患を扱うのが肛門科医というわけです。

 肛門管には直腸の一部と肛門上皮が含まれますが、それぞれ神経支配は大きく異なります。
・直腸:痛みを感じる神経がない→痛くない
・肛門上皮:痛みを感じる→痛い

 つまりどこが悪いかで病気の症状にも大きな違いが出ます。これが肛門疾患を診断する上でのヒントになります。すなわち、内痔核は直腸の一部ですから、痛みが出ることは少なく、出血や脱出が主な症状です。ただし、内痔核が脱出したままになって戻らなくなる(痔核かんとん)とうっ血をおこし外痔核まで腫れて、とても痛くなります。
 裂肛は固い便により肛門上皮が傷つく病気なので、痛みや出血が主な症状になります。痔瘻は膿みをもつ病気なので、腫れて痛くなります。

お尻の診察

肛門疾患を診察するには、当然お尻を診せてもらわなければなりません。
肛門の診察には三つの課程があります。
1.視診・・・ まず目で見て異常がないかを確認する。
2.直腸指診・・・ 指を挿入して行う診察で、腫瘍や膿瘍(膿みのたまり)がないかを確認する。
3.直腸肛門鏡検査・・・ 普段肛門は括約筋の働きで閉鎖しているので、肛門鏡を入れ、肛門を開いて、病変を確認する。

下のイラストのように、お尻の診察には二種類の診察体位がありますが、当院では砕石位での診察を原則にしています。女性にはとても抵抗があると思いますが、診断には砕石位が良いと考えています。ご理解をよろしくお願いします。
砕石位と側臥位イメージ

痔核

内痔核は直腸の最も肛門に近い部分の粘膜が垂れ下がり、イボ状に膨らんだ状態です。
外痔核は肛門の皮膚の部分が腫れたもので、通常手術をしないで腫れはおさまります。
痔のイメージ
≪ 主な症状・・・ ≫
排便時出血や紙に真っ赤な血が付く、排便時に肛門からイボがでてくる
すっきり便が出ない
≪ 内痔核の治療 ≫
1.保存的治療・・・ 一時的な出血や軽度の脱出のときは腫れ止めの内服薬や軟膏・坐薬で経過を見ることになります。ただし、内痔核は薬で消失することはないので、症状が再燃することがあります。
2.手術・・・ 出血や脱出がひどい場合は手術で内痔核を切除する必要があります。腰椎麻酔(下半身麻酔)で7日〜10日の入院が必要です。
退院後も7日〜10日間は自宅で休養して下さい。肛門の手術はしばらく痛みが残りますし、創部から大量出血することがあるため決して無理をしないようにするためです。
3.ジオン硬化療法・・・
  (ALTA療法)
内痔核に薬を注射して、痔核を硬めて小さくする方法です。手術と違い、切ったりしないので、術後の痛みが少なく、早期の社会復帰が可能です。しかし、一口に内痔核といっても程度は様々です。ひどい内痔核の場合には硬化療法を行ってもすぐ再発する可能性があり、 硬化療法の適応はありません。軽いものであれば日帰り手術も可能ですが、ある程度のものは麻酔をかけて、しっかりとした手技で行うべきと考えます。麻酔をかけると入院が必要となります。
⇒ ジオン硬化療法(ALTA療法)へ

 ジオンを用いた硬化療法を施行できるのは、内痔核治療法研究会が主催する講習に参加し、知識と技術を認められた医師のみとなっています。
 当院は有資格の医師が診療に当たります。お悩みの方はご相談下さい。

裂肛(切れ痔)

 裂肛(切れ痔)は便秘などで力むことによって、肛門上皮が裂けてしまう病気です。基本的には便秘を避け、毎日規則正しい排便を心がけてもらうことで、切れないようにすることが大切ですが、切れたところを治すために、軟膏や坐剤を用いることになります。軽いうちはこのような治療法で良いのですが、何年も切れ痔を繰り返していると、慢性化して切れ痔の周りの肛門上皮がもり上がり、肛門ポリープや見張りイボができたり、肛門上皮が引き連れて肛門が狭くなってしまうことがあります。そして、排便の度に出血したり、痛みを伴うようになります。こうなると手術的な治療法を考えなくてはいけません。
裂肛イメージ
≪ 主な症状・・・ ≫
排便時出血や痛み(痛みは便の出始めに強い)、便が細い、すっきり便が出ない
≪ 治療 ≫
1.保存的治療・・・ 便秘を避け、スムーズな排便を心がける。慢性化していなければ、内服薬や軟膏・坐薬で経過を見ることになります。
2.手術・・・ 慢性化して痛みや出血がひどい場合やポリープが出来て脱出する場合は手術が必要です。腰椎麻酔(下半身麻酔)で7日〜10日の入院が必要です。

痔瘻

 痔瘻は肛門小窩から肛門腺への感染により肛門や直腸のまわりに膿瘍を形成し、排膿後にトンネル(瘻孔)になる病気です。このトンネルが残ると感染を繰り返すため手術で切除しなければなりません。痔瘻には膿みの広がりや大きさにより、単純痔瘻と複雑痔瘻の二つのタイプがあります。単純痔瘻は肛門の周りに膿瘍を形成する浅いタイプの痔瘻で、痔瘻のほとんどはこのタイプです。複雑痔瘻は直腸の周囲に膿瘍を形成する深いタイプの痔瘻で、手術せずに放置すると感染を繰り返し、癌(痔瘻癌)が発生する恐れがあるため、必ず手術をすることをおすすめします。
痔瘻01イメージ
≪ 主な症状・・・ ≫
2〜3日で肛門周囲が腫れて痛みが強くなる、自然に破裂(自潰)して膿みがでることがある
≪ 治療 ≫
切開排膿・・・ 膿んだらまず膿みを出さなければいけません。軽い場合は外来で局所麻酔を用い切開できますが、複雑痔瘻の場合には入院して腰椎麻酔下に切開が必要になります。
自潰して膿みがでることもありますが、いずれにせよ膿みがでることで症状は治まります。しかし、これで痔瘻が治ったわけではありません。膿みが出て炎症が治まるとそこがトンネルになりますが、この状態が痔瘻です。このトンネルを切除しないと感染を繰り返す恐れがあるため、根治には手術が必要になります。

 どのタイプも基本的には手術が必要になります。
 肛門腺が括約筋の間に存在するため、瘻孔も必ず括約筋を貫いています。ですから、不用意な手術操作で術後肛門が緩くなる恐れもあります。かといって、手加減しすぎると感染組織が残って再発することになりますし、さじ加減が非常に難しいのが痔瘻の手術です。
 最近では肛門機能に配慮した手術(括約筋温存術やシートン(Seton)法)なども行われています。どの術式になるかは、痔瘻のタイプ(単純痔瘻?複雑痔瘻?)、痔瘻の場所(体の後ろ寄り?前寄り?)、炎症の範囲や感染のおさまり具合によって違います。

痔瘻02イメージ
≪ 痔瘻の手術 ≫
1.痔瘻切除術・・・ 最も標準的な手術で、周囲の皮膚とともに瘻孔を切除する方法です。括約筋も切除するので後方(背中寄り)の痔瘻が適応になります。
2.括約筋温存手術・・・ 瘻孔だけをくり抜いて括約筋をできる限り手をつけず、肛門機能を保つ手術方法。括約筋が薄い前方(お腹寄り)の痔瘻に適応があります。
3.シートン法・・・ 括約筋部分の瘻孔にチューブや輪ゴムを通して、時間をかけてこのチューブや輪ゴムを閉めながら、トンネルを切り開いて瘻孔を開放する方法。1や2では括約筋のダメージが大きくなる場合(炎症治まっておらず切除すると大きくなるとき)にこの方法を用います。チューブがとれるまでに数週〜数ヶ月必要なこともあります。

最後に

 おおまかですが、肛門の基本的構造と三大疾患について、説明しました。
 肛門疾患(痔)は普通、外科で扱う病気ですが、良性疾患(命に関わる病気でない)である肛門疾患(痔)は、ついつい軽んじられ、坐薬や軟膏を漫然と使っていることが少なくありません。また、患者さんも恥ずかしいので薬だけもらっていることが多いと思います。非常に多くの方が悩んでいる病気にも関わらず、肛門専門医も全国に300名弱と不足しているのが現状で、当院は西濃地方で唯一の肛門専門医のいる医院として、肛門疾患で悩んでおられる方々のお力になれればと思います。

 また、セカンドオピニオンとして活用いただいても結構です。
 未熟ですが、私の経験が皆様の診療にお役にたてば幸いです。